宴唐ウん、ホンにあんたには、アルルに来て以来、ずいぶんお世話になるなあ。
ルー なあに、――これで私は何にもわかりやしませんがね、そいでも絵が好きで、そいでまあ、こうしてあなたともナニしてもらって、肖像画も描いていただいたし、お世話のなんのと、そいつはアベコベでさ。(ゴッホを助けて歩き出す)
ヴィン いやいや、僕の方が――悪いのは僕の方だ。
ルー え? 悪いとおっしゃると?
ヴィン 僕の方なんだ。
ヴィンセントの声 悪いのは俺だ。ゴーガンは悪くない。ゴーガンはいつでも正しい。ゴーガンは強い。強いと言うことは正しいと言うことだ。しかし、しかし、ゴーガンは、ホントに正しいのか? そして俺はいつでも旅団長なのか? 耳の長い驢馬なのか? ゴーガンに俺のことを耳の長い驢馬など言う資格があるのか? いやいや、いやいや、それでも悪いのは俺だ。あんな偉大な画家で先輩のゴーガンにアブサンぶっかけたりしたのは悪いとも! 今日帰ったらゴーガンに俺はあやまらなければならぬ。そうだとも!
ヴィン そうだ、あやまる。
ルー なあに、あなた、あやまるなんて、そんな大げさなことをおっしゃらなくたって、ハハ!
ヴィン ルーラン、君はホントに、ホントに善い人だなあ!(言いながらルーランの大きな手を取って、その手へ自分の頬を持って行く)
ルー おや! あんた、泣いているね。
ヴィン ? うん、いや。何でもない。何でもないんだ。
ヴィンセントの声 そうなんだ。人間はみんなみんな善いんだ。ゴーガンも善い人間だ。人間はお互いにホントにあやまり合って、仲よくやって行くのが本当だ。何を俺は苦しんでいるんだ? 貧しい、打ちくだかれた心で、生きて行けば、すべては明るく、すべては幸福に行く。それに気がつかないとは、何と俺は馬鹿だろう。こんなに明るい空がある。この空を俺は描ける。なにが不足なんだ? ゴーガンは善い奴だ。俺は帰ったら直ぐに、心からあやまろう……
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声がそう言っている間に、ルーランとヴィンセントの姿は街道を下手へ歩み去って消える。
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5 黄色い家で
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「アルルの女」第二組曲4の「ファランドール舞曲」。曲の途中から、それに合せて踊っている小さな靴音がカタコト、カタコトと混る。
かなり広い二つの室をぶちぬいてアトリ
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