ニ言ったことなどより偉大なことじゃないかしら? 私はそう思うの。ゴーガンさん、あなたがどんなに賢い方でも、世の中には、あなたにわからないことだって有ってよ。
ゴー なに、そうじゃない。私が賢いから、わからないことがあるんですよ。その証拠に私は三十過ぎまで証券屋だった。そいつをいっぺんに放り出して絵描きになった。ところが、あなたの御主人は現に一流の銀行屋でさ、マネエのモデルをしていたあなたと結婚して、ぜいたくさせて着飾らして絵画を描かして、膝の上にのせて、撫でまわして、ヒュンヒュン言わして、おしあわせそうだ。へっ、そこいらが、私にはわからないですよ。
ベルト まあ!(真赤になっている)
ロート 無礼なことを言うと承知しないぞ、蕃人め。
ゴー 無礼じゃなくて賛辞を呈しているんだよ。
ベルト ええええ、あなたが、私を軽蔑なさっていることは知っていますとも。あなたは、すべての人を軽蔑なさるんです。特に女をね。よござんすとも。しかしお気をつけなさいよ、最後にあなたは、地獄に落ちますよ。
ゴー 地獄じゃなくて極楽に落ちますね。また、女を軽蔑したりもしません。ただ私の尊敬する女はあなた方じゃない。御存じですかね、マルチニックの女の腰は、あなたの腰の二倍はあります。
ロート (表の通りに目をやっていたのが)そらそら、チンコロが帰って来た!(一同がそちらを見る)
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奥の、店先から少し離れた明るい通りに七つ道具をさげた二人の画家が立ちどまって何か語っている。写生帰りのシニャックとヴィンセントで、シニャックは普通の画家らしい身なりだが、ヴィンセントは鉛管工夫などの着るナッパ服にあちこちに絵具のくっついたのを着ている。話しているのは主としてヴィンセントの方で、それもただの話しようではなく、夢中になって、足を曲げたり、手に持った濡れたカンバスを振りまわしながら何かを説き立てている。それが声は聞えないので、まるでギニョール芝居を見ているようだ。――語り合いながら、戻って来たのが、話に熱中して、立ち止ってしまったのである。
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ロート なるほどキリキリ舞いをしておる。
テオ ああなんです。夜まであの調子で――
エミ 全体、なんの話をしているんだろう?
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ちょうどその時、こちらへ向
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