も次郎も同じこんだ。どつちもおらの孫だけあつてバカスケだ。
森山 んだけんど、なんでやすよ、こんな若いしたちにして見りや、こんだ又戦争にでもなりや直接自分たちが引つぱり出されるんじやから、軍備問題ではムキにもなる道理でやすねえ。
りき さようさ、困つたもんだ。……(寂しそうなシヤガレた声で)次郎、そんでお前がおらに相談に来たつうのは、そいつたような気持で東京さ行きたいというのかえ?
次郎 ……うん、家に居ても、この先、しようねえから――
りき そうか。……

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(永い間。……シーンとした中に火じろの火のはぜる音と、柱時計のカツ、カツ、カツと刻む音)
[#ここで字下げ終わり]

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りき ……喜十よ、お前がなあ、村八分になりかかつとるについては、お前の方からは金五郎にも村の衆にも悪い事はなんにもしなかつただな?
喜十 こんりんざい、俺の方で悪い事はしたおぼえ無えです。
りき お前は馬鹿正直の善《え》え人間だ。そりや俺が知つとる。だどもどんな善え人間でも自分じや気が附かねえで、人の気い悪くするような事するもんだ。
森山 だけんど、わしなんども方々問合わしたが、喜十さんの方にそんな事あ無えでさあ。そのおとどしの選挙の時の須山さんの買収をサシたの喜十さんだつたと言うのも濡れぎぬだ。第一、こんな人がそんな出過ぎた真似をするかしないか、誰が考えてもわかる筈だに、ツイ芹沢の口車にのつてなんとなくそういう事になつちやつてるのでやす。
りき ……たしかに、喜十よ、悪い事しねかつたというの嘘じやねえな?
喜十 俺あへえ、たとえ神さまの前で嘘つく事あつても、ばさまの前で嘘あ、つきやせん。
りき よし、よからず、んじや。ならば、お前は喜こんどれ、そんで、ええ。自分は幸せもんじやと思つて喜こんどりや、それでええのよ。
喜十 へい?
りき 村八分になろうと七分になろうと、そつたらこと捨てて置いて百姓しろ。そうだらず? 今どき人さまに対して悪い事を一つもしねえで過して行けるというのは、大した事だぞ。自分がそれ知つてれば、それでいゝじやねえかよ。こんな満足な事あ無えんじやから、満足してればよからず。第一、村のもんが今いくらお前をイジメにかかつても、人間わけも無えことを、そういつまでもやれるもんで無え。今に飽きて、忘れつちまわあ。
喜十
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