てる者あ一人もねえさ。だのに喧嘩あ、やつぱしやらかすだ、だらず? だら、そこから出発してだなあ――
新一 ちがう! そりや喧嘩はするよ誰だつて。んだけど、そいつあ、カーツとなつた時の、つまりまちがいで、人間のふだんの状態じやねえさ。そのまちがいを元にしてだな、年中喧嘩の仕度をしてなきやならんと、お前言つてんだ。
次郎 喧嘩あ、まちがいにしろだ、そんなまちがいが多過ぎることを俺あ言つてんだ! そんだら、そいつはまちがいでは無くつて、人間はもともとそうだつて事なんだ。これまでもそうだつたし、これからもそうだ! でなかつたら、原子爆弾を早く多くこさえようと競争なんぞ、どうしてしるだ? え?
新一 だつて、そりや、それとこれとは話が――
次郎 ちがやあしねえ、同じ事だねえか! そんで、どうせそうならば、つまりそれが今の実際の事ならばだ、そこんとこから自分の考えを決めるのが本当だと俺あ言つてるまでだ。第一、お前がそんな理想みてえな事言つて屁りくつこねたり出来るのは、新ちやんが工業学校なんぞ出してもらつて、本なんぞも、いつぺえ読んだりよ、今じや甲府の工場につとめて立派な月給とつたりしているからだ。
新一 そんじや、次郎だつて家へそう言つて学校行くようにしたらいいじやねえか!
次郎 それが出来ればこんなこと誰が言うもんだ! タンボと畑で合せて三段ちよつとに、雑木の山が二段しか無くて一家七人、食つて行くのがヤツトだねえかよ。へえ、そこの次男坊主の冷めしぞうりだ俺あ。
新一 学校に行けなくとも自分で本読んで勉強できるよ。
次郎 本読む時間がどこにあるだ? 三百六十五日、夜なべまでやつてんだぞ、そうでなくとも兄ちやんなど今に相続の時が来ると俺にもチツトは田地を分けてやらざならねえ、家じや立ち行かなくなる、それ考えて今から青くなつてるのがチヤンとわからあ。俺が東京さ出ようと思うのが、どこがいけねえ?
新一 いけねえとは言わねえけどさ、お前が警察予備隊に入るだなんと言うからさ――
次郎 へん、新ちやんなんぞ、今では特権階級だかんなあ。それに町の工場に行つたりして共産党かなんかにカブレたアンベエずら。だからそんな――
新一 なんだと! 俺がなんで特権階級だ? へんな事ぬかすと、きかんぞ! 第一、警察予備隊に反対するだけで、なんで共産党にカブレたことになるんだ?
次郎 そうだねえか、よー、思い
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