して、フラフラと立ちあがり、友吉に近づき、いきなり襟くびをつかむ)死んでしまえ! 早く死んでしまえ!
友吉 ……(その父の、ほとんど錯乱した顔を見あげていたが)お父っあん!(泣く)
義− よし、わしが、じゃ……(ふるえる両手に力を入れて友吉の首をしめはじめる。友吉抵抗せず)
人見 まあまあ、おとっつあん!
義一 わしが、わしが、此奴を生みつけたんだ! わしが殺してやる! このチキショウめ!(けんめいに力を加える)
友吉 く、苦しいよ、お父っあん[#「お父っあん」は底本では「お父つあん」]! かんにんして――
人見 ああ! ちょ、ちょ、ちょっと、そんな――(恐怖と苦悩のために、両眼が飛び出しそうな顔で、動けなくなり、畳に突っぷして、両手を組合せる。義一に首をしめられた友吉の顔が次第に土気色になって、眼が釣りあがって来る。……その間も、底気味悪いサイレンは断続してひびいてくる)
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夜の会堂。
木造の貧弱な教会の内部で、久しく集会も廃されて、あちこちと荒れすたれ、一隅は人見兄妹の起居に使用されている。粗末な木のベンチが一方に積みあげてある。
ローソクが一本、窓の下の台の上にともっており、その光が窓にはめたささやかなステインド・グラスを照らしている。そのローソクに向かい、ユカにひざまずき、ベンチの坐板に組合せた両手を置き、それにヒタイをつけて、動かないでいる治子。……
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治子 ……(はじめ、ささやくように)神さま……わたくしたちをお助けください。……友吉さんを、お助けください。……それから、兄さんを、お助けください。……それから、友吉さんのお父さん、お母さん……明さん、妹さんを……お助けください。どうぞ、どうぞ、お助けください。神さま……(ウ、ウ! とすすり泣きそうになった声をおさえつけ、しばらく黙っていてから、つとめて静かに、「教会式」なとなえかたで)……天にましますわれらの父よ、願くばみ名をあがめさせたまえ。み国をきたらせたまえ。み心の天になるごとく地にもならせたまえ。われらの日用のかてを今日もあたえたまえ。われらにおいめある者をわれらが許すごとく、われらのおいめも許したまえ。われらを試みにあわせず、悪より救い出したまえ。国と力と栄えは、なんじのものなればなり。アーメン。……(かなり永く黙って
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