じさん!
義一 いいえ、あなた! なあに、そんな事だけなら、なんでもございません! どうで、こんな人でなしの奴を出したんですから、一家のものがそのために食えなくなろうと、石を投げられようと、それ位のことは、あたりまえだと存じますよ、はい! わしが腹にすえかねるのは、よりによって、このわしの子供にです、いえ、わしの家は今こそビロクしていますが、もとはひとかどの士族の家でございまして、天子様に対しましてです、この――いえ、その家からです、こんな不逞の、けしからんチクショウを出したと思いますると、それだけが、それだけが、わしはくやしゅうございまして、ほんとに!(フラフラしながら、友吉の方へ向って、竹力を握って立ちかける)
宗定 もういいから――よくわかったから――おい君!(今井に眼顔で指示する。今井、義一を制止する)
義一 てめえみたいな奴は、一刻も早く、舌でも噛みきって、死んでしまえッ!
黒川 もういいから、だまりたまい!(今井に手を貸して義一を室の隅の方へつれて行って、押えつけるようにして坐らせる。今井は、義一の耳に口を持って行って、しきりとなだめている)
宗定 ……(タバコを深く吸ってから、ニコニコしながら友吉に)なあ! 今日は警察の者としていうんじゃないよ。国民の一人として――つまり、君も僕も国民どうしとしてだなあ、いうんだが――どうだね、ここいらで、気を入れかえてつまり心気一転して、これまでの事は、いっさいなかったことにして、出直してくれんか。こうして、われわれも、そいから、君の家の人たちも、(人見をアゴでさして)先生もだねえ、困りきっているんだから、どうだろうね?
友吉 ……(スナオに頭をさげる)すみません。(つづいて父親の方へも人見の方へもおじぎをする)……すみません。
義一 すまないと思ったら、すぐに、今日にでも――
宗定 おやじさん、君はいっとき、だまっとれ!(友吉に)……ほんとに、じゃ、すまないと思うんだね?
友吉 はい。みなさんに、御心配をかけて――
宗定 じゃ、召集に行ってくれるね?
友吉 ……それは、あの――
宗定 え? 出征するんだね?
友吉 いいえ。
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(一同がシーンとしてしまう。友吉の無邪気な答えに、一同はこれまでに馴れている。しかしまた、この無邪気さが、とうてい抵抗することのできないものであり、この後はただ押し問答に
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