伴 よかろう。それで――で、主の祈りというのは、どういうのかね?
人見 主の――?
伴 聞かせてくれたまい。
人見 しゅ[#「しゅ」は底本では「しゆ」]、主の祈りでございますか?
伴 うん。やって見せてくれたまい。
人見 でも――。
伴 べつにさしつかえはないだろう?(はじめて笑う) いけないのかね?
人見 ……(おびえた眼で、あいてを見守っていたが、やがて、となえはじめる。色を失った唇がピクピクひきつって[#「ひきつって」は底本では「ひきつつて」]いる)……天にましますわれらの父よ、願くばみ名をあがめさせたまえ。み国をきたらせたまえ。み心の天になるごとく地にもならせたまえ。われらの日用のカテを今日もあたえたまえ。われらにおいめあるものを、われらがゆるすごとく、われらのおいめをも、ゆるしたまえ。われらを試みにあわせず、悪よりすくい出したまえ。国と力とさかえは、なんじのものなればなり。アーメン。
伴 ……(しばらくだまって考えてから)もう一度。
人見 ……天にましますわれらの父よ、願くばみ名をあがめさせたまえ。み国をきたらせたまえ。み心の天になるごとく地にもならせたまえ。われらの日用のカテを今日もあたえたまえ。われらにおいめあるものをわれらが許すごとく、われらのおいめをも、ゆるしたまえ。われらを試みにあわせず、悪よりすくい出したまえ。国と力とさかえは、なんじのものなればなり。アーメン。
伴 アーメン……国と力とさかえは、なんじのものなればなり、か。……ふむ。……そのねえ、その国というんだなあ?
人見 はあ……?
伴 そりゃ、なにかね、つまり天国とかなんとか――まあ、そいった事なんだろ?
人見 はあ。まあ、大体その――
伴 だが、信者当人の取りようによって、今現にこうして生きている此の世のだな、此の国がそうだ、という考えもあり得るのかね? え、どうだえ? そんなふうに教えている、つまり教派というかね、教会も有るんじゃないかね?
人見 さあ……有るのかもしれませんが……私は、その、広いことを知りませんで――
伴 君自身は、どうなんだ?
人見 は?……はあ。その――
伴 自分の事だからいえるだろう。それに、とにかく、君あ、牧師なんだからね、そのへんの考えがハッキリしていなくては、つとまらんわけじゃないかね? どうだろう?
人見 はい。それは――それはそうでございますが、その
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