ョット後姿を見送っていたが、直ぐに再び叩き棒を掴み、なんの事もなかったように、麦を叩きはじめる)
青年 ……(踊り跳ねるようにしながら走って行く少年を、いつまでも見送っている。やがて、百姓が麦を叩いていることに気付き、自分も再び棒をあげて、叩きはじめる……トントントンと、二人が交互に拍子をとって叩く音。双方黙ったまま、かなり永い間叩き続ける。……その内に、はじめそれと気が附かぬ位に低く、次第にハッキリと聞きとれる程に高くなって、百姓がフンフンフンと鼻歌を歌っているのが聞こえる。……青年、それに気が附き叩く手を休めて、百姓を見ている……間)
百姓 ……(叩き終り、散り拡がった麦を両手で掻き集め、ムシロの端を掴んで盛り上げる。その間も無心に歌う鼻歌の声。……青年は、相手の歌をやめさせぬために、声をかけるのも、動くのも控へて、此方でジッと[#「ジッと」は底本では「ヂッと」]立ったままでいる。……百性は麦を盛り上げ終り)さて、と……(風に当ててふるうために、ムシロの隅の箕を取ろうとして、その尻にのせてある縫針の包と糸に気附き)ふん……(中年男と若い女の立去った方を振返って見た上で、二つを取り上
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