小諸の賀山君の妹さんから言って来ている。……賀山さんと言うのは源太郎の学校友達でやす。
百姓 ふむ、ふむ……
女 んだから、俺には、お前に、どうしても岩村田の家に俺の留守中、暮していてくれとは言えない。川上の実家に戻っていてくれても、よいと思う。どちらにしても、お前が居心持の良い所に居てくれ。それが一番だと思う。……特に川上の実家に居れば、川上ではお前のお母さんは病身だし、小さい弟が一人きりしか居ないのだから、かなり家の手助けになるだろうと思うから、結局、当分、実家に居てくれてもよいと思う。
百姓 ふむ……
女 ……ただ……ただ……お前は、たとえ何処にいても、俺の妻であると言う事だけは忘れないでくれ……それを忘れないで、しっかり、シャンとしてやってくれ……お前は気が弱いから、それを俺は――(胸が迫って来て、プツンと言葉が切れる)
百姓 ふむ……ふむ……(千歯のケバをむしったりして、何とも言わない――)
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(間)
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女 ……(涙声になりそうなのを、こらえながら)そしてね、……そしたら、四五日前、岩村田から源次郎さんがヒョッコリやって来て――
百姓 へえ……その性の悪い弟がかえ?
女 うん……そいで、何だと思ったら、源次郎さん今度徴用になって、なんでも飛行機拵える工場に行くようになった……そんで、岩村田の内が、母と妹きりで無人になるので、是非帰って来てくれ……そう言って――
百姓 徴用か……そうかや……
女 おっかさんは、あんだけいじめ抜いて、飯を食わせるのも惜しむようにして、追い出すようにして返しときながら今更になって、いくらそんなわけが有るにしろ、又戻って来てくれは、あんまり身勝手すぎる……そう言って、どんな事があっても岩村田へやるわけには行かねえと言いやす……おっかさんは、あの気性で、いったん言い出したら、聞かねえ。お前が岩村田へ戻るようなら、もうへえ、かんどうする……わしも困っちまって――
百姓 ……そうかや。
女 ……どうしたらよかんべと思って――。
百姓 ……そうかや。……そんで、お前はどうしようと思ってるだ?
女 わしかえ?……んだから、わしには、どうしてええかもうへえ、よくわからねえ。……実あ川上にこうして居ても、ほかの事はなんとも無えけど、源太郎の事を思うと、わしも辛いのです。……んだけど正直言って、これか
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