「廃墟」について
三好十郎

 敗戦後一年ぐらいたってから書いたもので、この巻の三作品の中では最も古い。
 敗戦の年の八月十五日、天皇の放送があると言うので、――それが大体どんな意味の放送であるかは、すこし前にわかっていたが――家族を疎開させて自分一人で暮していた、ガランとした自宅の座敷のラジオの前に坐った。間もなく放送がはじまった。天皇の言葉はハッキリせず、聞きとれた所も意味が不明瞭であった。ただわかったのは日本が敗れ、降服したという事だけであった。聞いているうちに、自分にも思いがけず、急に泣きだしていた。悲しいと言うような気持では全くない。腹立たしいと言うのでもない。自分がどんな感情のために泣いているのかわからない。もちろん感傷的になっているためでもない。ただむやみに泣けて、しまいに声を出していた。それまでのすべての事が終り、次ぎにどんな事が始まるのか全くわからない。始まるとすれば、何か今までとは縁もゆかりも無い妙な事が始まる。しかしそれがどんな事やら、まるでわからないし、わかりたくもない。……強いて言えば、そういう気がしながら、子供が泣くように泣いていた。
 後々まで、その時自分
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