く後には多少不平なりき。しかし出来るだけは完美にしたいとは思う也。御勉強可被下候。壱円位の損耗ならば小生より差出してもよろしく候。
 鳴雪翁のうれしさはあたかも情郎の情婦におけるが如く、親の子におけるが如くにて体裁も不体裁もなくただむやみやたらに嬉しき也。『ほととぎす』は翁の好意に向って感謝する処なかるべからず。
 鳴雪翁は二号に「粛山公《しゅくざんこう》の句《く》」を送らるる由小生は「反古籠」を永く書くべし。
 右大略批評まで如此候。以上。
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    一月二十一日[#地から3字上げ]子規
      正之君
  一号残り御贈り被下度鳴雪翁宛にてもよろし。

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   当地昨今厳寒
手|凍《こゞ》えてしば/\筆の落んとす
[#ここで字下げ終わり]

『ホトトギス』が松山で出ている間は余はあまり熱心なる投書家ではなかった。子規居士のみは「俳諧反古籠」を連載し募集句を選むこと等を怠らずやっていたが、鳴雪翁も何か家事上の都合で一時俳壇を退れた事などがあってどうも思う通りに原稿が集らなかったようであった。その上いつも経費が不足し意外に手数のかかる事が多いので極堂君はその続刊困難の事を時々《じじ》居士に洩らして来た。次の手紙は『子規書簡集』に載っているものであるが、前掲の手紙に対照して見ることの上に興味が多いので更にここに載せる事にする。

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 拝啓おしつまり何かと御多忙と奉存《ぞんじたてまつり》候。
『ほととぎす』の事委細|御申越《おもうしこし》承知致候。編輯を他人に任すとのことはもとより小生の容喙《ようかい》すべきことにてもなく誰がやっても出来さえすれば宜しく候。ただ恐る三|鼠《そ》は粗漏にして任に堪えざるを。盲天《もうてん》寧ろ可ならんも盲目よく為し得べきや否や。
 御申越によれば売先は予州にあらずして他国に在る由。これ最も可賀の事とうれしく存候。即ち予州は極めて僻在《へきざい》の地ながら俳句界の牛耳を取る証拠にしてこの事を聞く已来《いらい》猶更小生は『ほととぎす』を永続為致度念|熾《さかん》に起り申候。
 編輯上最も面倒なるは募集句清書ならんと存候。せめてはこれだけにても御手を助けんと存、この度は小生清書致し俳巻に添置候。今後も出来さえすれば清書可致候。
 しかしこの事は小生の奮発より成るものにて他人を
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