のままそっくり取上げるちゅうこって、やっとおさめてきた」
「榛の木畑を?」
善ニョムさんは、びっくりして頭をあげた。
「仕様がないじゃないか、とっさん」
息子はおさえつけるようにそう云った。
「いやだ、俺《お》らァいやだ」
善ニョムさんは、子供のように頭をふりながら、向うを向いてしまった。
「そんな駄々ッ子見てえなこと云うんじゃねえ、とっさん」
しかし、善ニョムさんは、頭を振って云いつづけた。――いやだ、いやだ、俺ァいやだ――。
善ニョムさんは、泣声になって喚《わ》めいた。いやだ、いやだ――青い麦の芽達が、頭を振りながら、善ニョムさんの眼前に現われて来た。
「いやだ、俺ァ……、あの麦に指一本でもさわってみろ、こんだァあの娘ッ子を、あいつが麦を踏みちぎったように、あの断髪頭をたたき潰《つぶ》してやる……」――
底本:「徳永直文学選集」熊本出版文化会館
2008(平成20)年5月15日初版
底本の親本:「約束手形三千八百円也」改造社
1930(昭和5)年11月15日
初出:「中外日報」
1930(昭和5)年3月
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年12月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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