目的とする銅粉をいれた液體の中に、二つの金屬板をたてて極板とし、これに電氣の兩極をつなぐ。すると一方の極から一方の極へ電氣が流れてゆく作用で、分解した銅粉は一方の極板に附着する。電胎法と稱ばれる今日の活字字母の製法は、これを二度繰り返すことで母型をつくるので、例へば最初の種子《たね》、「大」なら「大」といふ字を彫刻した凸版(雄型)に一度この法を用ひて雌型(凹字)の「大」をとり、いま一度繰り返して、こんどは雌型「大」から雄型「大」をとるのである。
「木版ハ數々刷摩スレバ尖鋭ナル處自滅シ終ニ用フベカラザルニ至ルコレヲ再鏤スルノ勞ヲ省クニ亦コレヲ用フベシ」と説いてゐるが、これで讀むと幸民は鉛のボデイをふくめた鑄造活字のことまでは思ひ及んでゐないと思はれるが、「其欲スル所ニ從テ其數ヲ増スヲ得其版圖ノ鋭利ナル全ク原版ト異ナラズ」と述べてゐるあたりは、或は實驗くらゐやつたか知れず、電氣分子による分解作用のいかに零細微妙であるかに感動してゐるさまが眼に見えるやうである。
 川本幸民は醫者であつた。呉秀三の「箕作阮甫」に據ると、「幸民は裕軒と號し攝州三田の人。幼い時藩の造士館に學び、二十歳江戸に出て足
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