《おどろ》きは後から考えれば無駄でした。鷹は余りひどい勢いで部屋に飛び込んだので卓子に躯をぶっつけ、そのまま死んで仕舞ったのでしたから。
 夫人は鷹の死骸から、今の今まで金翅雀のいた処に眼を移しました。けれども悲しいことに彼女はもう二度とジェラルド太守に会うことも出来なければ金翅雀を見ることも出来ませんでした。
 それから七年に一度ずつ、軍馬に騎《の》った太公がキルデーアの革船と呼ばれている山の廻りを騎り廻します。太守がいなくなった時、その軍馬の銀の蹄鉄は半|吋《インチ》の厚さがありました。この銀の蹄鉄が猫の耳ほどの薄さにすり減ればジェラルド太守は再び生きた人間の世界に戻ることが出来英国人と一つの大戦争をして、四十年間アイルランドの王様になると信じられています。
 ジェラルド太守と彼の戦士達は、今ムリイマストの城の下にある長い巖窟の中で眠っているのです。洞穴に沿うて真中に一つの卓子があります。太守が卓子の一番上座につき、両側にずらりと戦士等がすっかり武装を調えたまま卓子に頭をもたせて眠っています、戦士等の乗馬も、鞍を置き手綱をつけられて、主人達の後の両側にある馬部屋に立っています。約束の日が来ると、両手に六本ずつの指を持って生れる筈の水車屋の息子が彼のラッパを吹きならすでしょう。すると、馬は足踏み嘶いて、勇ましい騎士達は目を醒し、馬に跨って軍《いくさ》に向って進むのです。
 七年に一度ずつ、まわって来る或る晩、太守が革船山を騎り廻している時に偶然通りがかった者には巖窟の入り口が見えると云うことがあります。凡そ百年ばかり昔、夜道でおくれ、一杯機嫌の一人の博労が、燈火のついている巖窟を見つけ、中に入って行って見ました。燈火、四辺のひっそりした静かさ、武装した戦士達の有様は、博労をぎょっとさせるに十分でした。彼は酒の酔もさめて正気になりました。けれども、手がひどく震え出して、馬具を石敷きの床の上にとり落して仕舞いました。馬銜《くつわ》の音が長い洞穴内に反響すると、博労のすぐわきの戦士の一人が、少しばかり頭を持ちあげ、太い嗄れ声で訊きました。
「もう時が来たのか?」
 博労は気転をきかせて答えました。
「いやまだです。もうじきでしょう」
 重い兜をかぶった戦士の頭は又卓子に突伏しました。
 博労はやっとの思いで巖窟を出ました。他の者が同じようなことに出会ったと云う話をまだ一
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