は地におちてひろがる
このひかりのなかで遊ぼう
月
月にてらされると
ひとりでに遊びたくなってくる
そっと涙をながしたり
にこにこしたりしておどりたくなる
かなしみ
かなしみを乳房《ちぶさ》のようにまさぐり
かなしみをはなれたら死のうとしている
ふるさとの川
ふるさとの川よ
ふるさとの川よ
よい音《おと》をたててながれているだろう
ふるさとの山
ふるさとの山をむねにうつし
ゆうぐれをたのしむ
顔
どこかに
本当に気にいった顔はないのか
その顔をすたすたっと通りぬければ
じつにいい世界があるような気がする
夕焼
いま日が落ちて
赤い雲がちらばっている
桃子と往還《おうかん》のところでながいこと見ていた
冬の夜
皆《みんな》が遊ぶような気持でつきあえたら
そいつが一番たのしかろうとおもえたのが気にいって
火鉢の灰を均《な》らしてみた
麗日《れいじつ》
桃子
また外へ出て
赤い茨《いばら》の実《み》をとって来ようか
冬
ながいこと考えこんで
きれいに諦《あきら》めてしまって外へ出たら
夕方ちかい樺色《かばいろ》の空が
つめたくはりつめた
雲の間《あいだ》に見えてほんとにうれしかった
冬の野
死ぬことばかり考えているせいだろうか
枯れた茅《かや》のかげに
赤いようなものを見たとおもった
病床無題
人を殺すような詩はないか
無題
息吹き返させる詩はないか
無題
ナーニ 死ぬものかと
児《こ》の髪の毛をなぜてやった
無題
赤いシドメのそばへ
にょろにょろと
青大将を考えてみな
梅
眼《め》がさめたように
梅にも梅自身の気持がわかって来て
そう思っているうちに花が咲いたのだろう
そして
寒い朝|霜《しも》ができるように
梅|自《みず》からの気持がそのまま香《におい》にもなるのだろう
雨
雨は土をうるおしてゆく
雨というもののそばにしゃがんで
雨のすることをみていたい
木枯《こがらし》
風はひゅうひゅう吹いて来て
どこかで静まってしまう
無題
雪がふっているとき
木の根元をみたら
面白《おもしろ》い小人《こびと》がふざけているような気がする
無題
神様 あなたに会いたくなった
無題
夢の中の自分の顔と言うものを始めて見た
発熱がいく日《にち》もつづいた夜
私《わたし》はキリストを念じてねむった
一つの顔があらわれた
それはもちろん
現在の私の顔でもなく
幼《おさ》ない時の自分の顔でもなく
いつも心にえがいている
最も気高《けだか》い天使の顔でもなかった
それよりももっとすぐれた顔であった
その顔が自分の顔であるということはおのずから分った
顔のまわりは金色《きんいろ》をおびた暗黒であった
翌朝《よくちょう》眼《め》がさめたとき
別段熱は下《さが》っていなかった
しかし不思議《ふしぎ》に私の心は平らかだった
底本:『八木重吉詩集』白凰社
入力:j.utiyama
校正:丹羽倫子
1998年8月20日公開
1999年8月12日修正
青空文庫作成ファイル:
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