花さけば
こころ おどらん
夜
夜になると
からだも心もしずまってくる
花のようなものをみつめて無造作《むぞうさ》にすわっている
日が沈む
日はあかるいなかへ沈んではゆくが
みている私《わたし》の胸をうってしずんでゆく
果物《くだもの》
秋になると
果物はなにもかも忘れてしまって
うっとりと実《み》のってゆくらしい
壁
秋だ
草はすっかり色づいた
壁のところへいって
じぶんのきもちにききいっていたい
赤い寝衣《ねまき》
湯あがりの桃子は赤いねまきを着て
おしゃべりしながら
ふとんのあたりを跳《は》ねまわっていた
まっ赤《か》なからだの上したへ手と足とがとびだして
くるっときりょうのいい顔をのせ
ひょこひょこおどっていたが
もうしずかな障子《しょうじ》のそばへねむっている
私
ながいこと病《や》んでいて
ふと非常に気持がよいので
人の見てないとこでふざけてみた
奇蹟《きせき》
癩病《らいびょう》の男が
基督《キリスト》のところへ来て拝《おが》んでいる
旦那《だんな》
おめえ様が癒《なお》してやってくれべいとせえ思やあ
わしの病気ゃすぐ癒りまさあ
旦那なおしておくんなせい
拝むから 旦那 癒してやっておくんなせい 旦那
基督は悲しいお顔をなさった
そしてその男のからだへさわって
よし さあ潔《きよ》くなれ
とお言いになると
見ているまに癩病が癒った
花
おとなしくして居《い》ると
花花が咲くのねって 桃子が言う
冬
木に眼《め》が生《な》って人を見ている
不思議《ふしぎ》
こころが美しくなると
そこいらが
明るく かるげになってくる
どんな不思議がうまれても
おどろかないとおもえてくる
はやく
不思議がうまれればいいなあとおもえてくる
人形
ねころんでいたらば
うまのりになっていた桃子が
そっとせなかへ人形をのせていってしまった
うたをうたいながらあっちへいってしまった
そのささやかな人形のおもみがうれしくて
はらばいになったまま
胸をふくらませてみたりつぼめたりしていた
美しくあるく
こどもが
せっせっ せっせっ とあるく
すこしきたならしくあるく
そのくせ
ときどきちらっとうつくしくなる
悲しみ
かなしみと
わたしと
足をからませて たどたどとゆく
草をむしる
草をむしれば
あたりが かるくなってくる
わたし
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