秋の かなしみ

わがこころ
そこの そこより
わらひたき
あきの かなしみ

あきくれば
かなしみの
みなも おかしく
かくも なやまし

みみと めと
はなと くち
いちめんに
くすぐる あきのかなしみ

  泪《なみだ》

泪《なみだ》、泪《なみだ》
ちららしい
なみだの 出あひがしらに

もの 寂びた
哄《わらひ》 が
ふつと なみだを さらつていつたぞ

  石 く れ

石くれを ひろつて
と視、こう視
哭《な》くばかり
ひとつの いしくれを みつめてありし

ややありて 
こころ 躍《おど》れり
されど
やがて こころ おどらずなれり

  竜 舌 蘭

りゆうぜつらん の
あをじろき はだえに 湧く
きわまりも あらぬ
みづ色の 寂びの ひびき

かなしみの ほのほのごとく
さぶしさのほのほの ごとく
りゆうぜつらんの しづけさは
豁然《かつぜん》たる 大空を 仰《あふ》ぎたちたり

  矜持ある 風景

矜持ある 風景
いつしらず
わが こころに 住む
浪《らう》、浪、浪 として しづかなり

  静寂は怒る

静 寂 は 怒 る、
みよ、蒼穹の 怒《いきどほ》りを

  悩ましき 外景

すとうぶを みつめてあれば
すとうぶをたたき切つてみたくなる

ぐわらぐわらとたぎる
この すとうぶの 怪! 寂!

  ほそい がらす

ほそい
がらすが
ぴいん と
われました

  葉

葉よ、
しんしん と
冬日がむしばんでゆく、
おまへも
葉と 現ずるまでは
いらいらと さぶしかつたらうな
葉よ、
葉と 現じたる
この日 おまへの 崇厳

でも、葉よ
いままでは さぶしかつたらうな

  彫られた 空

彫られた 空の しづけさ
無辺際の ちからづよい その木地に
ひたり! と あてられたる
さやかにも 一刀の跡

  しづけさ

ある日
もえさかる ほのほに みいでし
きわまりも あらぬ しづけさ

ある日
憎しみ もだえ
なげきと かなしみの おもわにみいでし
水の それのごとき 静けさ

  夾 竹 桃

おほぞらのもとに 死ぬる
はつ夏の こころ ああ ただひとり
きようちくとうの くれなゐが
はつなつのこころに しみてゆく

  おもひで

おもひでは 琥珀《オパール》の
ましづかに きれいなゆめ
さんらんとふる 嗟嘆《さたん》でさへ

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