itor of every magazine I know of Vanity Fair, the Smart Sets, Everybody, and many others.』
『Good for you. Have you tried the New Republic? If not, I will write a letter to Frank Harris.』
『I thank you. Please do so. Is it very far from here?』
『No, just a few blocks. By the way, Frank Harris will be interested with an article about the Japanese literature, something like the one you once gave to me.』
フロイドは、人柄に似合わず太い文字で、ぎぐしゃく紹介状を書いて私に手渡した。西二十一丁目であって、さほど遠くはない。ヴィレージで昼食をとって、ほどよい時刻を見はからって、ニュー・レパブリック社へ行った。編集者のフランク・ハリス君は在社であった。ここでは、Joint editorship というのであろう、フランク・ハリスのような人が幾人もいて、各自に受持の分担をやっているらしかった。会うと、温厚な、いかにも口数のすくない人で、一応フロイドと私との交際のことなど訊ねたのち、日本の文壇の近状など――と云って、私には雑誌で知っただけのものだが、それを書けるかときいた。私は、社会党の週刊誌やプログレッシヴ・ウイメンやゼ・インターナショナルのことをかいつまんで話をし、ともかく最善を試みてみることにして、タイプライタア用紙に十二枚程度という約束をして、ニュー・レパブリック社を辞した。
それから三日たって、私はタイプで書いた十二枚の原稿を社へ持って行くと、ハリス君は読んで
『Can I do anything else?』
『Well, why not see the city, and sketch around the scenes and other matters, such as the Fifth avenue and the status of Liberty? There will be an interesting article if you see it from an original and unique point.』
『I will try.』
そのときは、嬉しさでこおどりする気持で、エリック方へ取ってかえした。ちょうど五十六丁目の日蔭の街を歩いていると、向う側からさむざむとした恰好をした、木元のやって来るのに出遇わした。
『やあ、こないだはどうも。すこし酔っていたもんでね。』
『こっちも言葉が荒かったが――今日は、これみてくれよ、ニュー・レパブリック社からもらって来たのだが、』
私は、さっそく八十五ドルの小切手を、彼の眼の前に閃めかしてみせた。
『うへえ――すばらしいもんだね、そりゃ銀行の小切手じゃないか……』
『このうち、君へ二十ドルだけ進呈するよ。それにこの俺の着ている外套な、これも君にあげるよ、こうさむくちゃ外出もできないだろう。』
『うへッ、何とまがいいんだろう。ともかく、僕の宿で一杯やろう。』
二人の脚は、小もどりして、いつのまにか鶴亀まで歩いていた。行きずりに会った男といっても、多少なりと辰野の息のかかっていた木元である。まんざらみごろしにもできない気持がしたのであった。二人は、この前と同じテーブルにむかって掛けた。
底本:「日本の名随筆 別巻31 留学」作品社
1993(平成5)年9月25日第1刷発行
底本の親本:「青春の自画像」理論社
1958(昭和33)年5月発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2007年12月12日作成
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