ん男だということは二六時ちゅう肝に銘じて忘れないまでも、とにかくあっしは、じぶんの細君を心から尊敬しているという点にかけちゃ、立派に良人たる資格のある男だということを、大っぴらに世間の奴らに見せつけてやれる自信があるんだがなあ。……」
 カテリーナ・リヴォーヴナは、このセルゲイの言葉をきき、彼の嫉妬のはげしさや、自分を妻にしたいという願いを知って、頭がくらくらっとしてしまった。なかでもこの最後の願いは、よしんば当のその男と結婚まえに身も心も許しきった仲であったにしろ、女性にとってはやはり、いつ耳にしても嬉しい言葉なのである。今やカテリーナ・リヴォーヴナは、セルゲイのためなら火にも水にも飛びこもう、牢屋にもはいろうし十字架にものぼろう、という覚悟がついた。言いかえればセルゲイは、女をすっかり惚れこませてしまって、わが身にたいする女の無辺無量の献身を、まんまとその手に収めたわけである。女はじぶんの幸福に狂気せんばかりだった。彼女の血は湧きかえって、もはやそのうえ男の言葉に耳をかたむける余裕はなかった。彼女は、いきなり手の平でセルゲイの唇をおさえると、男の頭をじぶんの胸に押しつけながら、こう
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