イは、肩さきまでむき出しのカテリーナ・リヴォーヴナの両の腕から、そっと自分の頭を抜けださせながら、なおも言葉をつづけた、――「くどいようだけどね、もう一つ、ついでに聞いておいて貰いたい事があるんだ。ほかでもないがそりゃあ、こうしてあっしがあれやこれやと、くよくよ男らしくもなく、同じことを一ぺんどころか十ぺんも思案したりするのは、一つにはあっしの境涯が、この通りの賤しい身分だというせいもあるんでさ。仮りにもしあっしが、いわばまああんたと対等の身分でさ、何かこう旦那とか商人とかいわれる身の上だったら、それこそもうあっしとあんたとは、ねえカテリーナ・イリヴォーヴナ、あっしの息のある限り離れっこはないんだがなあ。ところが実際は、あんたもよく考えておくんなさいよ、あんたの前へ出ちゃあ、あっしという人間は、いったい何者ですかい? 今にもあんたが、その白い可愛らしい両手をほかの男の手にとられて、寝間へ連れていかれたにしたところで、あっしは何もかもこの胸一つに、じっとこらえていなけりゃならないんだ。いやそればかりか、その無念さのおかげで、ひょっとすると一生涯、われながら見さげ果てた腰抜け野郎だと、自分
前へ
次へ
全124ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
レスコーフ ニコライ・セミョーノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング