を今更ほかの女に見かえるようなことがあったら、よしんばその女がどこのどなた様であろうがあるまいが、ねえ可愛いセリョージャ、済まないけどあたしはお前さんと、とても生きちゃ別れられまいと思うのさ。」
セリョージャはぶるりと身をふるわせた。
「だってさ、カテリーナ・イリーヴォーヴナ! おいらの大事な掛替えのないお前さん!」と、彼は急に雄弁になって、――「二人の仲だの何だのって仰しゃるけどね、そういうお前さん自分で、それがどんなもんだか、とっくり検分してみなさるがいいや。現に今しがたもお前さんは、おいらが今晩は妙に沈んでると言いなすったがね、これでもおいらが沈まずにいられるものかどうかという、そこんところを、ちっとも考えちゃくれないんだ。おいらの心の臓はね、ひょっとすると、べっとり固まった血のりの中に、ずぶり浸《つか》っているようなもんだぜ!」
「聞かせて、さ、聞かせておくれ、セリョージャ、お前さんの苦労を洗いざらい。」
「聞かせるも何もありゃしねえ! 第一さ、今にもそら、思ってもぞっとするぜ、お前さんの亭主が、がらがらっと馬車で帰ってくる。と、途端にもう、可哀そうなこのセルゲイ・フィリップ
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