耳について離れず、ほとほとうんざりしてしまったのだ。さながらその声は、良人にたいしても舅にたいしても、いやそればかりか彼らの曇りない商家の血統にたいしてまで、彼女が何か犯罪をおかしたのだぞと、責めたてているようにひびいた。
何不足ない裕福の身の上だったとはいえ、舅の家におけるカテリーナ・リヴォーヴナの明け暮れは、世にも辛気くさいものであった。よそへお客に行くことも滅多になかったし、よしんば時たま商人仲間のつきあいで良人と連れだって馬車に乗って出かけるにしても、嬉しい気持は一切しなかった。世間の目は相変らずきびしく、彼女が椅子にかける物ごしから、部屋へ通る歩きつき、椅子を立つ身ぶりに至るまで、一挙一動細大もらさず見張っている。ところがカテリーナ・リヴォーヴナは、あいにく気性のはげしい女だった。おまけに、娘時代を貧乏のうちに送った彼女は、何ごともざっくばらんにぱっぱとやってのける癖がついていた。言われれば二つ返事で、すぐさまバケツ両手に川へ駈けだす。シュミーズ一枚のあられもない姿で、堤のかげで水浴びもする。木戸ごしにヒマワリの実《み》の殻《から》を、通りすがりの若い衆めがけてぶつけもする
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