にぶん貧乏人の娘であってみれば、婿がねの選り好みをするわけにも行かなかったのである。イズマイロフの店といえば、われわれの町でもまず中《ちゅう》どころで、極上のメリケン粉を商ない、郡部にある大きな製粉所を一つ賃貸しにしてその手に握り、なおその上に郊外にはなかなか実入りのいい果物ばたけもある、市内には立派な貸家の一つもある、といった身上《しんしょ》だった。商家としてはまずもって裕福な方である。おまけに家族が至って小人数で。舅のボリース・チモフェーイチ・イズマイロフはもう八十ちかい老人、だいぶ前からやもめになっている。息子のジノーヴィー・ボリースィチは、つまりカテリーナ・リヴォーヴナの亭主で、これまた五十を越した年配。それに当のカテリーナ・リヴォーヴナと、たったこの三人だけである。ジノーヴィー・ボリースィチに嫁いでそろそろ五年になるが、カテリーナ・リヴォーヴナには子供がなかった。ジノーヴィー・ボリースィチも、はじめの細君と二十年ほど連れ添ったあげくに、やもめになってカテリーナ・リヴォーヴナを迎えた次第だったが、やっぱり子供がなかった。せめて後添いからでも、屋号と資本の跡をとる子を授かれること
前へ
次へ
全124ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
レスコーフ ニコライ・セミョーノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング