ルンゲン物語」「ジーグフリート」「ファースト」等文芸作品にしたり、ウファーのスター、コンライト・ファイト、エミル・ヤンニングス等のファンであった。当時の映画で、「鉄路の白ばら」と云うまずしいレールわきの父と娘の物語りは、素晴しい感銘で二三度見た思い出がある。ドイツ映画「バリエテ」の色気あふれるリア・デ・プッティや、「メトロポリス」のブリギット・ヘルムなぞは僕の好みの女優であった。これにさかのぼり、「カリガリ博士[#「カリガリ博士」は底本では「ガリガリ博士」]」のような表現派の新しい映画や、「ひとで」なぞの前衛映画にも、なにかフィルムの構成の面白さや、「ドクトル・マブーセ」「吸血鬼」のような怪奇映画に興味をもつようになった。
「アナタハン」で京都で張り切っているジョセフ・フォン・スタンバーグの処女作、「救いをもとめる人」なぞも最早白髪に近視鏡をかける年老えるスタンバーグの近影を見て過ぎし日の感激が又新たになるのである。
私が父につれられ亭劇に、セシル・B・デミルの[#「セシル・B・デミルの」はママ]「イントレランス」を見た時には、まったく、そのローマのセットの偉大なのには子供心に驚異を感じ、それより増しておどろいたのはその入場料がたしか五円か七円だったと思う。当時の五円は今日の三千円以上ではなかろうかしら。
私はこの頃、天然色映画より進み、立体映画いや発香映画が発明されようと云うことであるが、なにか昔なつかしいサイレント映画がむしょうに見たくってならぬ。フィルムは大事にしておけば保存されるものである。もしもあるなら、サイレント名画をふたたび見る機会を得たいものだ。なにはともあれ少年の頃にあこがれに胸をときめかした「プロテア」の主演女優の名を夢声さんに聞かねばすまないような気がするではありませんか。
底本:「猿々合戦」要書房
1953(昭和28)年9月15日発行
※「イントレランス」の監督はセシル・B・デミルではなくD・W・グリフィスです。
入力:鈴木厚司
校正:伊藤時也
2010年1月26日作成
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