の、うちに三匹飼ってんだわ、とても可愛いわよ、だけれど社長さんは、蛇はグロテスクでお客がいやがるから、やっちゃあいけないというのよ、わたしとても悲しいわ」
「僕も蛇はあんまり好かなかったのだけれど南方にいた時、長さ十五尺もある錦蛇を飼っていたんだよ、鵞鳥をのみに来たのをみんなで生捕りにしたのだけれど、これが思ったよりおとなしくってね、マヤさんがいうようにこっちが可愛がると蛇はまるで犬のようになつくものだね」
「あらあんたも蛇好き、マアーうれしい」
 彼女は御膳をひっくり返して抱きついてきた。
「今度私の蛇見せてあげるわね、こんあ事なら、ハンドバックに入れて来ればよかったなアー」
 と彼女、蛇のことについてはモー夢中である。
「僕は熱帯地でとても熱いでしょう。だから大蛇といっしょにベットに寝ていたんだよ、大蛇め僕の手枕をして、いびきをかくのだもの驚いてしまった。だからうるさいッて頭を軽くたたくと、すみませんてな顔をして寝がえりをしたよ」
「アハハハハ、ほんとね、蛇っていびきをかくわねー、アハハハハ」
 マヤさんの笑い声にまじってにぎやかな手拍子がわき起ったので眼を転じると、これはおどろいた、女だてらに眼を皿のようにして歯をむき出し、保姆になりたいなの、あけみさんがゴリラ踊りをやっているではないか。いやそれより驚いたのは、エイうるさいとついに、浴衣をかなぐりすてたのか、あちらこちらにシミーズ一枚、ズROス一つの彼女たち、抱き合ったり、またがったり、乳房を柱にぶつけてトレーニングしたり、おたがいの髪をつかみ合いをしてたわむれたり、まろびつころびつ女体の相打つ響が白い餅をつくように心地よげな音をたてている中を、
「降参々々々々」
 と男性が五、六人の女軍に取りまかれ、身につけているもののすべてをはぎとられまいと必死となって抵抗する。滑稽な逃げまどう姿。聖歌がどことなく鳴りひびくような女群のわきたつ群像は、さすがは舞踊芸術に生きる彼女達の自然ににじむ明朗さで、少しも不潔感も不快感もちりっ葉ほども見えぬのは一体どうしたものか。むしろ清流に遊ぶ人魚のたわむれるような心地よさが、みなぎっているのは、天心爛漫、童心にかえったあまりにも自然の姿なのであろうか。私は外分をかざり、いやしみとへつらい、讒訴と虚偽を内に秘した、会社の慰安温泉旅行の仮面をかぶり汚濁に満ちた宴会よりも、心もなにも裸にさらし|酒の神《バッカス》と踊りたわむるこの裸の祭典にまさるものが他にあろうか。宴は益々最高潮、舞台のつもりでつい浮かれでて、浴衣をぬぎ、美事にぬいだストリップ。アッ! 今日はバタフライをつけてなかったか、気がついたが後の祭り、ワアーとはやされ逃げ込むおかしさ。
「サアサアサア今度はかくし芸かくし芸」
「ナニいってるのさ、こう真っぱだかじゃかくすところなんかありゃしないわよー」
 滝まさみさんの本調子かっぽれ、続いて星ひろ子さんの日本舞踊、せっかくうまいところを見せようとするのにワアーと群りくる酔女群スルリスルリと着衣をすべり取る。ゆで玉子のように裸にされて、舞台では平気な彼女達、今宵ばかりはキャッと前をおさえて逃げ込む姿もおかしく、マヤじゅん子さんの秘中の秘芸、サラリと浴衣がすべり落ちれば眼もあざむく曲線美、身体のあきちにビールびんかん徳利のアクセサリ、器用に飾っての一踊り、その美事さに思わず歓声、とたんに開け放された屋外の闇の中、ガランドシンの大音響。屋根に登って盗み見の旦那が下に落ちたらしい、いやとんだ罪つくりのストリップ宴会。森マネージャーが耳のそばで、
「ちと荒れぎみでさあ、これからがストリップ台風が吹きまくるのですよ、部屋の唐紙をおさえていても駄目ですよ。陽気な風娘は飛びこんでシャツもパンツも吹き飛ばしてしまいますぜ」
 これは大変と尾崎士郎旦那ははや浮き腰、
「キミイ、これはまったく危険だぜ、早く逃げ出そうぜ」
 二人はあわてて廊下に飛び出した。
「アラ先生! 逃げるの、逃がさないわ」
 ともはや、はやてが吹いて来た。酒にたおれた風娘が階段の下、廊下の真んなか、ドサリ、ドサリ伸びている。
「しっかりしなけりゃ駄目よ――」
 と抱きおこす仲間の風娘もやわらかい乳房を重ねてぐったり伸びてしまうものすごさ。サット一陣、はやてがかけ降り、
「待てエー」
 と叫ぶストリップ台風、風速正に三十米、
「ソレ来た!」と、二人はだしで外へ飛び出しやっと一息。
「おい君、あのものすごい台風が静まるまでどっかで一つ飲みなおそうよ」



底本:「猿々合戦」要書房
   1953(昭和28)年9月15日発行
入力:鈴木厚司
校正:伊藤時也
2010年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小野 佐世男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング