は、私さへ泣き出したくなつてしまつた。だけど私はお姉さんだ、私まで泣いたりしたらどんなに洋ちやんが心細いだらう、さう思つて
「大丈夫よ、だいぢよぶよ」とひきつる顔で無理に笑顔をしてみせた。
 しかし、その大丈夫といふのは、洋ちやんに対してといふよりは、むしろ自分自身へ言つてゐる様な声だつた。
「仕様がないから汽車がとまつたら降りませうね」と荷物をしらべて小さい軽いのを一つ洋ちやんにもつてもらひ、後の三つか四つを一まとめにして私がもつことにした。汽車はゴウ/\とすごい音をたてゝ走つてゐる。
 あかりがついてゐないから、真暗やみ、わづかに機関車がつけてゐるあかりが洩れて来るのと、後は沿線の電燈がパアーツ、パアーツと行きすぎにてらす位のものだ。
 洋ちやんは案外おちついてゐた。泣き出されでもしたらどうしようと内心ビク/\しながら、御機嫌をとつてゐたのだが、思ひの外落着いて黙つてゐる。二人は片手に荷物をおさへ、片手にお互ひの手をしつかり握つた。とまつたら、と全神経を一つにして待機してゐた。もう、そろ/\着きさうな時分だが、と思つてゐたら、あかりのあか/\とついた停車場を汽車は矢のやうにふつとばして、みる/\うちに後にしてしまつた。
 さうだ! これは急行だつたんだ。私はがつかりして荷物から手を放す。
「これ急行だから中々とまらないわ、少し、しやがんでませう」と手をつないだまゝしやがみこんだ。外はもう、まつくら……遠くに海が光つてみえる。海岸に点々と赤い燈がつゞいてる。
「あら! きれいね」
 と云つてみたりするが、心はそれどこぢやない。ボーツと汽笛がすごく大きくきこゑて思はずつないだ手に力がはいる。汽車はトンネルへ這入つた。ゴウ/\とひゞきが壁にこだましてうるさい。中頃まで行つたらパラ/\と水玉がおちて来て、のぼせた顔にふりかかつた。後で考へたのだけれど、トンネル内の湧き水が汽車の進行でおちて来るものらしい。それにしても雨みたいだ。
 こりやたまらない、と車内に逃げ込まうと思つたが、戸は始めから開かなかつたのだ。つい二人とも口が重くなる、黙りこくつてゐると又こわい。ムリに云ひかけてみる。
「さむくない?」
「うん、大丈夫……」
「こわい?」
「うゝうん」
 これでおしまひだ。つぎ穂がなくて又もとの沈黙へ返つてしまふ。
「お母様たち心配してらつしやるわよ。ちつとも、こわくなん
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