リ/\すると輪も廻るのね……あゝ、おもしろい」
「ね、見えたでしよ? ね」とお友達は嬉しさうな声を出した。
 私たちは眼がいたくなつてしまつて指をはなし、「いたくなつちやつた……」と眼をこすつた。眼をあけたらまぶしかつた。お友達はにこ/\しながら
「ねえ、今見えた黄色い輪ね。あれなんだか知つてる?」
 得意さうに皆をみまはした。みんな、まぶしさうな眼をまだショボ/\させて、
「うゝ、うん」と一度に首をふる。
「あれはタマシヒなのよ」
「……? ……?」
 皆驚いて眼と眼を見合はす。
「ふーん? あれがタマシヒなの」と誰かゞ感に耐えない声を出した。それから一しきりタマシヒの話でにぎわつた。
「タマシヒつて眼ン中にあるもんなの? 輪になつてるのね。知らなかつたわ」
「人魂ッてのはあれが飛ぶの?」
「馬鹿ね。人魂なんて迷信よ」
「あら? あるんですつてよ。家のおぢいさん見たッて云つてたわ」
 その中に誰かゞ大きな声で、
「あら? ○○さん!」とタマシヒを教へてくれたお友達を引張ッて、
「変よ、右の眼でやつても左の眼でやつても見えるわよ。二つあるの?」ときた。
 ○○さんは悠然として、
「わかんない人ね、両方の眼の真中にあるのよ。だから、どつちでやつたつても、みえるんぢやないの……」私は感心して帰つて来た。そしてとき/″\やつてみる。
 夜、お床へ這入つてから、真ッ暗な中でグリ/\をやつた。真暗な中でもタマシヒは見えた。真暗ン中でも見えるんだから、こりや本当だな、私は固くさう信じてしまつた。ハナと一しよに。
「ハナはノーミソの腐つたもの」「タマシヒは眼と眼の真中にある黄色いまるい輪である」と思ひこんでゐた。ところがハナの方を公開したら、大笑ひに笑はれたので、すこぶる自信を失つて、タマシヒの方迄あやしくなつた。
 この方はまだ公開してない。あの時のやうに又どうせ笑はれるんだらうと思つて言はなかつた。

 今思ふからこそおかしいが、それでも時々眼をつぶつては、グリグリとやつて、昔を思ひ出してゐる。



底本:「みの 美しいものになら」四季社
   1954(昭和29)年3月30日初版発行
   1954(昭和29)年4月15日再版発行
入力:鈴木厚司
校正:林 幸雄
2008年2月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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