と、途端に、「ワーツ!」と家中の人がお腹をかゝえて笑ひ出してしまつた。おかしいことには節ちやんも、小ッちやなヨーベーさへ大笑ひに笑ふのである。笑はないのはネコに私位のもの。
「アッハッハッハ。ノーミソが、アハ……くさつたんだなんて、アッハッハッハ、あー、くるしい」
「ワハハ……バカ! そんなにノーミソが腐つてたまるかい、ワハハ……」
「おーくるしい、お腹がいたくなつちやひましたよ。ハッハッハ」
 涙を浮べておかしがつてゐる。
「だつて、千代ちやんが教へてくれたのよ。渡辺千代子さんが……」と抗議を申し込んだが、あんまり皆が笑ふので、これは嘘だつたんだなと私もおかしくなつて笑ひながら、
「ぢやあ何なの、ノーミソが腐つたのでなきや、何なの?」きいたが、誰も笑ふばかりで教へてくれなかつた。
 そして問題はノーミソの腐つたのではないといふことがわかつただけで、又も迷宮入りとなつてしまつた。

 あれが多分小学校の三、四年のときだらうから、三、四、五、六、一、二、三、四と実に八年目に私は生理衛生で、鼻汁は鼻腔内粘液が空気の出入りなどでよごれたものなり、といふ事を知つた。「ハナは……」といふこの文句を本の中にみつけたとき、私はおかしくて/\笑ひが止らなかつた。骨の名前や血の循環なんかは忘れても、これだけは終生忘れないと思ふ。

    タマシヒ

 やつぱり三年位のときだつたんだらう。冬のある日、七、八人のお友達と校舎の板かべによつかゝつて日向ぼつこをしてゐた。私たちは遊びにあきると、よくさうやつて日向ぼつこをするのだ。
 誰だつたか思ひ出せないが、そのとき急に眼をつぶつて、指で眼のはしを軽くおさへてグリ/\とまはす様なことをし始めた。変なことをしてるな、とみてゐると、急にそのお友達が、スットンキョウな声をあげて、
「あ、あゝ、みえる/\」といつた。そして向き直ると、「ね、かうやつてごらんなさい」と又グリ/\としてみせた。
 私たちも眼をつぶつてやつてみた。別にどうもならない。
「なーに? 何が見えるの?」
「ほら/\、見えるぢやないの、黄色い輪が……」
「どこに? 見えやしないわ」
「うゝん。そら眼をつぶつたらね。つぶつたまんま、グリ/\してるのと反対の方へ横眼をつかふのよ。そして……グリ……グリグリ……ネ、見えたでしよ、黄色い輪が……ね」
「あゝ、あゝ、見えた、見えたわよ。グ
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