ドストエウスキー Fyodor Mikhailovich Dostoevski
森林太郎訳

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)新道《しんみち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|捏《こね》捏ねて、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)とう/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

     一

 己の友達で、同僚で、遠い親類にさへなつてゐる、学者のイワン・マトヱエヰツチユと云ふ男がゐる。その男の細君エレナ・イワノフナが一月十三日午後〇時三十分に突然かう云ふ事を言ひ出した。それは此間から新道《しんみち》で見料を取つて見せてゐる大きい鰐《わに》を見に行きたいと云ふのである。夫は外国旅行をする筈で、もう汽車の切符を買つて隠しに入れてゐる。旅行は保養の為めと云ふよりは、寧ろ見聞を広めようと
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