る[#「虐けられる」はママ]には、十三と云ふつし王が年齢もふさはしからうが、国守になるにはいかがはしいと云ふ事である。しかしつし王に京都で身を立てさせて、何年も父母を顧みずにゐさせるわけにはいかない。それをさせる動機を求めるのは、余り困難である。そこでわたくしは十三歳の国守を作ることをも、藤原氏の無際限な権力に委ねてしまつた。十三歳の元服は勿論早過ぎはしない。
 わたくしが山椒大夫を書いた楽屋は、無遠慮にぶちまけて見れば、ざつとこんな物である。伝説が人買の事に関してゐるので、書いてゐるうちに奴隷解放問題なんぞに触れたのは、已[#「已」は底本では「巳」]むことを得ない。
 兎に角わたくしは歴史離れがしたさに山椒大夫を書いたのだが、さて書き上げた所を見れば、なんだか歴史離れがし足りない[#「し足りない」は底本では「足りない」]やうである。これはわたくしの正直な告白である。
[#地から1字上げ](大正四年一月)



底本:「ザ・鴎外 ―森鴎外全小説全一冊―」第三書館
   1985(昭和60)年5月1日初版発行
   1992(昭和67)年8月20日第2刷発行
初出:「心の花」
   1915(大正4)年1月
※疑問点の確認に際しては、「鴎外全集 第二十六卷」岩波書店、1973(昭和48)年12月22日発行を参照しました。
入力:村上聡
校正:野口英司
1998年3月30日公開
2005年5月14日修正
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