親切に言ってくれたのであるが、こっちが却ってその勝手を破壊しようと思っているのだとは、全く気が附いていなかったらしい。僕の試みは試みで終ってしまって、何等の成功をも見なかったが、後継者は段々勝手の違った物を出し出しして、芝居の面目が今ではだいぶ改まりそうになって来ている。つまり捩《ねじ》れた、時代を超絶したような考は持ってもいず、解せようともしなかったのが、蔀君の特色であったらしい。さ程深くもなかった交《まじわり》が絶えてから、もう久しくなっているが、僕はあの人の飽くまで穏健な、目前に提供せられる受用を、程好く享受していると云う風の生活を、今でも羨《うらや》ましく思っている。蔀君は下町の若旦那《わかだんな》の中で、最も聡明《そうめい》な一人であったと云って好《よ》かろう。
この蔀君が僕の内へ来たのは、川開きの前日の午過《ひるす》ぎであった。あすの川開きに、両国を跡《あと》に見て、川上へ上って、寺島で百物語の催しをしようと云うのだが、行って見ぬかと云う。主人は誰だ。案内もないに、行っても好いのかと、僕は問うた。「なに。例の飾磨屋《しかまや》さんが催すのです。だいぶ大勢の積りだし、不参の
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