思ひ出したるやうに「藥を、藥を」といふのみ。
余が病は全く癒えぬ。エリスが生ける屍を抱きて千行《ちすぢ》の涙を濺ぎしは幾度ぞ。大臣に隨ひて歸東の途に上ぼりしときは、相澤と議《はか》りてエリスが母に微かなる生計を營むに足るほどの資本を與へ、あはれなる狂女の胎内に遺しゝ子の生れむをりの事をも頼みおきぬ。
嗚呼、相澤謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我腦裡に一點の彼を憎むこゝろ今日までも殘れりけり。
[#地から2字上げ](明治二十三年一月「國民之友」第六卷六十九號附録)
底本:「日本現代文學全集 7 森鴎外集」講談社
1962(昭和37)年1月19日初版第1刷
1980(昭和55)年5月26日増補改訂版第1刷
入力:青空文庫
1997年10月8日公開
2004年3月27日修正
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