ぼ》したことは、まだ覚えていらっしゃって。お互に口に出さないつらさを感じましたわね。
 それだのにあなた、パリイにいらっしゃってから、すぐにわたくしの事をお忘れなさいましたのね。お手紙はたった四度しか参りませんでした。それから勲章をお貰いになったお祝を申上げた時、お葉書を一度下さいましたっけ。それにわたくしはどうでございましょう。
 わたくしはあなたの記念を心の隅の方に、内証で大切にしまって置いて、昔のようになんの幸福もなしに暮らしていました。それからわたくしは二度目に結婚いたしました。これまで申上げると、わたくしはこの手紙を上げる理由を御話申さなくてはなりませんから、その前に今の夫の事を申しましょう。格別面白いお話ではございませんから、なるたけ簡略に致します。ジネストは情なしの利己主義者でございます。けちな圧制家でございます。わたくしは万事につけて、一足一足と譲歩して参りました。わたくしには自己の意志と云うものがございません。わたくしは持前の快活な性質を包み隠しています。夫がその性質を挑発的だと申すからでございます。わたくしはただ平和が得たいばかりに、自己の個人性を全滅させました。そ
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