らうと云つてゐるが、それにしてもおさがりが少しも無いと云ふのである。
 平野郷は城代土井の領分八万石の内一万石の土地で、七名家《しちめいか》と云ふ土着のものが支配してゐる。其中の末吉《すゑよし》平左衛門、中瀬《なかせ》九郎兵衛の二人が、美吉屋から帰つた女中の話を聞いて、郷《がう》の陣屋《ぢんや》に訴へた。陣屋に詰めてゐる家来が土井に上申した。土井が立入与力《たちいりよりき》内山彦次郎に美吉屋五郎兵衛を取り調べることを命じた。立入与力と云ふのは、東西両町奉行の組のうちから城代の許《もと》へ出して用を聞せる与力である。五郎兵衛は内山に糺問《きうもん》せられて、すぐに実を告げた。
 土井は大目附|時田肇《ときだはじめ》に、岡野|小右衛門《こゑもん》、菊地鉄平、芹沢《せりざは》啓次郎、松高縫蔵《まつたかぬひざう》、安立讃太郎《あだちさんたらう》、遠山《とほやま》勇之助、斎藤|正五郎《しやうごらう[#「しやうごらう」は底本では「しやうごろう」と誤記]》、菊地|弥六《やろく》の八人を附けて、これに逮捕を命じた。
 三月二十六日の夜《よ》四つ半時《はんどき》、時田は自宅に八人のものを呼んで命を伝へ、
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