ス。「お絹さんというのは誰《だれ》だい」
「そら、けさこちらへお火を入れにまいったでしょう。きのうあなたがお着きになると、あれが直ぐにそう云いましたわ。あの方は本を沢山持っていらっしゃったから、きっとお休みの間勉強をしにいらっしゃったのだって」
こう云って置いて、女中は通い盆を持って廊下へ出た。
純一はお絹と云う名が、自分の想像したあの女の性質に相応しているように思って、一種の満足を覚えた。そしてそのお絹が忙《いそが》しい中で自分を観察してくれたのを感謝すると同時に、自分があの女の生活を余り卑しく考えたのを悔いた。
雑煮の代りが来た。給仕の女中から、お絹の事を今少し精《くわ》しく聞き出すことは、むずかしくもなさそうであったが、純一は遠慮して問わなかった。意味があって問うように思われるのがつらかったのである。
純一は取り散らしたものを革包の中に入れながら、昨夜《ゆうべ》よりも今朝起きた時よりも、だいぶ冷かになった心で、自己を反省し出した。東京へ帰ろうと云う決心を飜《ひるがえ》そうとは思わない。又それを飜す必要をも見出さない。帰って書いて見ようと思う意志も衰えない。しかしその意志の
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