、の、「煤烟《ばいえん》」がどうのと云うことになる。意外に文学通だと思って、純一が聞いて見ると、どれも読んではいないのであった。
 純一にはこの席にいることが面白くない。しかしおとなしい性《たち》なので厭な顔をしてはならないと思って、努めて調子を合せている。その間にも純一はこう思った。世間に起る、新しい文芸に対する非難と云うものは、大抵この岡村のような人が言い広めるのだろう。作品を自分で読んで見て、かれこれ云うのではあるまい。そうして見れば、作品そのものが社会の排斥を招くのではなくて、クリク同士の攻撃的批評に、社会は雷同するのである。発売禁止の処分だけは、役人が訐《あば》いて申し立てるのだが、政府が自然主義とか個人主義とか云って、文芸に干渉を試みるようになるのは、確かに攻撃的批評の齎《もたら》した結果である。文士は自己の建築したものの下に、坑道を穿《うが》って、基礎を危《あやう》くしていると云っても好《い》い。蒲団や煤烟には、無論事実問題も伴っていた。しかし煤烟の種になっている事実こそは、稍|外間《がいかん》へ暴露した行動を見たのであるが、蒲団やその外の事実問題は大抵皆文士の間で起した
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