黷ヘ衝っ立ったままで、暫《しばら》く床を眺めていた。座布団なんと云う贅沢品《ぜいたくひん》は、この家では出さないので、帽をそこへ抛《な》げたまま、まだ据わらずにいたのである。布団は縞が分からない程よごれている。枕に巻いてある白木綿も、油垢《あぶらあか》で鼠色に染まっている。
純一はおそるおそる敷布団の上に据わって、時計を出して見た。もう殆ど十二時である。なんとも名状し難い不愉快が、若い、弾力に富んでいる心をさえ抑え附けようとする。このきたない家に泊るのが不愉快なのではない。境遇の懐子《ふところご》たる純一ではあるが、優柔なeffemine[#二つ目と三つ目の「e」は「´」付き]《エッフェミネエ》な人間にはなりたくないと、平生心掛けている。折々はことさらにSparta《スパルタ》風の生活をして見ようと思うこともある位である。しかしそれは自分の意志から出て、進んで困厄に就くのでなくては厭《いや》だ。他働的に、周囲から余儀なくせられて、窮屈な目に遭いたくはない。最初に旅宿をことわられてから、或る意地の悪い魔女の威力が自分の上に加わっているように、一歩一歩と不愉快な世界に陥って来たように思わ
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