イける。
 純一の想像には、なんの動機もなく、ふいと故郷の事が浮かんだ。お祖母《ば》あ様の手紙は、定期刊行物のように極まって来る。書いてある事は、いつも同じである。故郷の「時」は平等に、同じ姿に流れて行《ゆ》く。こちらから御返事をするのは、遅速がある。書く手紙にも、長短がある。しかもそれが遅くなり勝ち、短くなり勝ちである。優しく、親切に書こうとは心掛けているが、いつでも紙に臨んでから、書くことのないのに当惑する。ぼんやりした、捕捉し難い本能のようなものの外には、お祖母あ様と自分とを結び附けている内生活というものが無い。しかしこれは手紙だからで、帰ってお目に掛ったら、お話をすることがないことはあるまいなどと思う。こう思うと、新年には一度帰れと、二度も続けて言って来ているのに、この汽車を国府津で降りるのが、なんだか済まない事のようで、純一は軽い良心の呵責を覚えた。
 隣の商人らしい男が新聞を読み出したのに促されて、純一は又脚本を明けて少し読む。女主人公Marie Louise《マリイ ルイイズ》の金をほしがる動機として、裁縫屋Paquin《パケン》の勘定の嵩《かさ》むことなぞが、官能欲を隠
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