d燈だけが景気好く附いている。純一は帽とインバネスとを壁の鉤《かぎ》に掛けて、ビュッフェエと壁一重を隔てている所に腰を掛けた。そして二品《ふたしな》ばかりの料理を誂《あつら》えて、申しわけに持って来させたビイルを、舐《な》めるようにちびちび飲んでいた。
初音町の家を出るまで、苛立《いらだ》つようであった純一の心が、いよいよこれで汽車にさえ乗れば、箱根に行《い》かれるのだと思うと同時に、差していた汐《しお》の引くように、ずうと静まって来た。そしてこんな事を思った。平生自分は瀬戸なんぞの人柄の陋《いや》しいのを見て、何事につけても、彼と我との間には大した懸隔があると思っていた。就中《なかんずく》性欲に関する動作は、若し刹那《せつな》に動いて、偶然提供せられた受用を容《ゆる》すか斥《しりぞ》けるかと云うだけが、問題になっているのなら、それは恕《じょ》すべきである。最初から計画して、※[#「※」は「さんずい+于」、第3水準1−86−49、180−14]《けが》れた行いをするとなると、余りに卑劣である。瀬戸なんぞは、悪所へ行く積りで家を出る。そんな事は自分は敢てしないと思っていた。それに今わざ
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