臥《くたび》れて瀬戸が帰った。純一は一人になってこんな事を思った。一体己にはesprit non preocupe[#「preocupe」の二つの「e」は「´」付き]《エスプリイ ノン プレオキュペエ》が闕《か》けている。安という女が瀬戸のfrivole《フリヴオル》な目で発見せられるまで、己の目には唯家主の娵《よめ》というものが写っていた。人妻が写っていた。それであの義務心の強そうな、好んで何物をも犠牲にするような性格や、その性格を現わしている、忠実な、甲斐甲斐しい一般現象に対しては同情を有していたが、どんな顔をしているということにさえも、ろくろく気が附かなかった。瀬戸に注意せられてから、あの顔を好く思い浮べて見ると、田舎生れの小間使上がりで、植木屋の女房になっている、あの安がどこかに美人の骨相を持っている。色艶《いろつや》は悪い。身綺麗《みぎれい》にはしていても髪容《かみかたち》に搆《かま》わない。それなのにあの円顔の目と口とには、複製図で見たMonna Lisa《モンナ リイザ》の媚《こび》がある。芸者やなんぞの拵えた表情でない表情を、安は有しているに違いない。思って見れば、抽象
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