かく彼には強い智識欲がある。それが彼をして待つような促すような態度に出《い》でしむるのである。
 純一はこう思うと同時に、この娘を或る破砕し易い物、こわれ物、危殆《きたい》なる物として、これに保護を加えなくてはならないように感じた。今の自分の位置にいるものが自分でなかったら、お雪さんの危《あやう》いことは実に甚だしいと思ったのである。そしてお雪さんがこの間《ま》に這入った時から、自分の身の内に漂っていた、不安なような、衝動的なような感じが、払い尽されたように消え失せてしまった。
 火鉢の灰を掻《か》きならしている純一が、こんな風に頓《とみ》に感じた冷却は、不思議にもお雪さんに通じた。夢の中でする事が、抑制を受けない為めに、自在を得ているようなものである。そして素直な娘の事であるから、残惜しいという感じに継いで、すぐに諦《あきら》めの感じが起る。
「またこん度遊びに来ましょうね」何か悪い事でもしたのをあやまるように云って、坐を立った。
「ええ。お出《いで》なさいよ」純一は償《つぐの》わずに置く負債があるような心持をして、常よりは優しい声で云って、重たげに揺らぐお下げの後姿を見送っていた。
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