う》であったが、話の本題に入《い》る前に、こういう事を言った。「この頃緑町では、御大家《ごたいけ》のお嬢様がお砂糖屋をお始《はじめ》になって、殊《こと》の外《ほか》御繁昌だと申すことでございます。時節柄結構なお思い立《たち》で、誰《たれ》もそうありたい事と存じます」といった。話の中《うち》にいわゆる心学《しんがく》を説いた円朝の面目《めんぼく》が窺《うかが》われる。五百は聴《き》いて感慨に堪えなかったそうである。
 この砂糖店は幸か不幸か、繁昌の最中《もなか》に閉じられて、陸は世間の同情に酬《むく》いることを得なかった。家族関係の上に除きがたい障礙《しょうがい》が生じたためである。
 商業を廃して間暇《かんか》を得た陸の許《もと》へ、稲葉の未亡人は遊びに来て、談は偶《たまたま》長唄の事に及んだ。長唄は未亡人がかつて稽古したことがある。陸には飯よりも好《すき》な道である。一しょに浚《さら》って見ようではないかということになった。いまだ一段を終らぬに、世話好の未亡人は驚歎しつつこういった。「あなたは素人《しろうと》じゃないではありませんか。是非師匠におなりなさい。わたしが一番に弟子入をしま
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