」言い畢《おわ》って、深尾は起って内に這入った。
 次に小南が藩主豊範の命を伝えた。
「この度差し出す二十人には、誰を取り誰を除いて好いか分からぬ。一同|稲荷社《いなりしゃ》に詣《まい》って神を拝し、籤引《くじびき》によって生死《しょうし》を定めるが好い。白籤に当ったものは差し除かれる。上裁を受ける籤に当ったものは死刑に処せられる。これから神前へ参れ」と云うのである。
 二十五人は御殿から下って稲荷社に往った。社壇の鈴の下に、小南が籤を持って坐る。右手には目附が一人控える。階前には下横目が二人名簿を持って立つ。社壇の前数十歩の所には、京都から来た砲兵隊と歩兵隊とが整列している。小南が指図すると、下横目が名簿を開いて、二十五人の姓名を一人ずつ読む。そこで一人ずつ出て籤を引いて、披《ひら》いて見て、それを下横目に渡す。下横目が点検する。この時|参詣《さんけい》に来合せたものは、初《はじめ》何事かと恠《あやし》み、ようよう籤引の意味を知って、皆ひどく感動し、中には泣いているものもある。
 上裁を受ける籤を引いたものは、六番隊で杉本、勝賀瀬、山本、森本、北代、稲田、柳瀬、橋詰、岡崎栄兵衛、川谷
前へ 次へ
全41ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング