の十人、八番隊で竹内、横田辰五郎、土居、垣内《かきうち》、金田、武内の六人、計十六人で、これに隊長、小頭各二人を加えると、二十人になる。白籤を引いたものは六番隊で岡崎多四郎以下五人、八番隊で栄田次右衛門以下四人である。
籤引が済んで一同御殿に引き取ると、白籤組の内、八番隊の栄田次右衛門以下四人、即《すなわ》ち栄田、中城、横田静次郎、田丸が連署の願書を書いて出した。自分等は籤引によって生死の二組に分れたが、初より同腹一心の者だから、一同上裁を受ける籤に当ったと同様の処置を仰せ付けられたいと云うのである。願書は人数が定まっているからと云うので、そのまま却下せられた。
所謂《いわゆる》上裁籤の組十六人は箕浦、西村両隊長、池上、大石両小頭と共に、引き纏《まと》めて本邸に留め置かれることになった。白籤組はすぐに隊籍を除かれて、土佐藩兵隊中に預けられ、別室に置かれた。数日の後に、白籤組には堺表より船牢《ふねろう》を以て国元へ差し下すと云う沙汰があって、下横目が附いて帰国し、各親類預けになったが、間もなく以後別儀なく申し付けると達せられた。
夜に入って上裁籤の組は、皆国元の父母兄弟その他|親戚《しんせき》故旧に当てた遺書を作って、髻《もとどり》を切ってそれに巻き籠め、下横目に差し出した。
そこへ藩邸を警固している五小隊の士官が、酒肴《しゅこう》を持たせて暇乞《いとまごい》に来た。隊長、小頭、兵卒十六人とは、別々に馳走《ちそう》になった。十六人は皆酔い臥《ふ》してしまった。
中に八番隊の土居八之助が一人酒を控えていたが、一同|鼾《いびき》をかき出したのを見て、忽《たちま》ち大声で叫んだ。
「こら。大切な日があすじゃぞ。皆どうして死なせて貰《もら》う積じゃ。打首になっても好いのか」
誰やら一人腹立たしげに答えた。
「黙っておれ。大切な日があすじゃから寐《ね》る」
この男はまだ詞《ことば》の切れぬうちに、又鼾をかき出した。
土居は六番隊の杉本の肩を掴《つか》まえて揺り起した。
「こら。どいつも分からんでも、君には分かるだろう。あすはどうして死ぬる。打首になっても好いのか」
杉本は跳《は》ね起きた。
「うん。好く気が附いた。大切な事じゃ。皆を起して遣ろう」
二人は一同を呼び起した。どうしても起きぬものは、肩を掴まえてこづき廻した。一同目を醒《さ》まして二人の意見を聞いた。誰一人成程と承服せぬものはない。死ぬるのは構わぬ。それは兵卒になって国を立った日から覚悟している。しかし耻辱《ちじょく》を受けて死んではならぬ。そこで是非切腹させて貰おうと云うことに、衆議一決した。
十六人は袴《はかま》を穿《は》き、羽織を着た。そして取次役の詰所へ出掛けて、急用があるから、奉行衆《ぶぎょうしゅう》に御面会を申し入れて貰いたいと云った。
取次役は奥の間へ出入して相談する様子であったが、暫《しばら》くして答えた。
「折角の申出ではあるが、それは相成らぬ。おのおのはお構《かまい》の身分じゃ。夜中に推参して、奉行衆に逢いたいと云うのは宜しくない」と云うのである。十六人はおこった。
「それは怪《け》しからん。お構の身とは何事じゃ。我々は皇国のために明日一命を棄てる者共じゃ。取次をせぬなら、頼まぬ。そこを退け。我々はじきに通る」
一同は畳を蹴立《けた》てて奥の間へ進もうとした。
奥の間から声がした。
「いずれも暫く控えておれ。重役が面会する」と云うのである。
襖《ふすま》をあけて出たのは、小南、林と下横目数人とである。
一同礼をした上で、竹内が発言した。
「我々は朝命を重んじて一命を差し上げるものでございます。しかし堺表に於いて致した事は、上官の命令を奉じて致しました。あれを犯罪とは認めませぬ。就いては死刑と云う名目《みょうもく》には承服が出来兼ねます。果して死刑に相違ないなら、死刑に処せられる罪名が承りとうございます」
聞いているうちに、小南の額には皺《しわ》が寄って来た。小南は土居の詞の畢《おわ》るのを待って、一同を睨《にら》み付けた。
「黙れ。罪科のないものを、なんでお上で死刑に処せられるものか。隊長が非理の指揮をしてお前方は非理の挙動に及んだのじゃ」
竹内は少しも屈しない。
「いや。それは大目付のお詞とも覚えませぬ。兵卒が隊長の命令に依って働らくには、理も非理もござりませぬ。隊長が撃てと号令せられたから、我々は撃ちました。命令のある度に、一人一人理非を考えたら、戦争は出来ますまい」
竹内の背後《うしろ》から一人二人|膝《ひざ》を進めたものがある。
「堺での我々の挙動には、功はあって罪はないと、一同確信しております。どう云う罪に当ると云う思召か。今少し委曲《いきょく》に御示下さい」
「我々も領解《りょうかい》いたし兼ねます」
「我々
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