お恵みくださいますので、近所じゅうの走り使いなどをいたして、飢え凍えもせずに、育ちました。次第に大きくなりまして職を捜しますにも、なるたけ二人が離れないようにいたして、いっしょにいて、助け合って働きました。去年の秋の事でございます。わたくしは弟といっしょに、西陣《にしじん》の織場《おりば》にはいりまして、空引《そらび》きということをいたすことになりました。そのうち弟が病気で働けなくなったのでございます。そのころわたくしどもは北山《きたやま》の掘立小屋《ほったてごや》同様の所に寝起きをいたして、紙屋川《かみやがわ》の橋を渡って織場へ通《かよ》っておりましたが、わたくしが暮れてから、食べ物などを買って帰ると、弟は待ち受けていて、わたくしを一人《ひとり》でかせがせてはすまないすまないと申しておりました。ある日いつものように何心なく帰って見ますと、弟はふとんの上に突っ伏していまして、周囲《まわり》は血だらけなのでございます。わたくしはびっくりいたして、手に持っていた竹の皮包みや何かを、そこへおっぽり出して、そばへ行って『どうしたどうした』と申しました。すると弟はまっ青《さお》な顔の、両方の頬《
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