は致死量でないにしても、薬を与えれば、多少死期を早くするかもしれない。それゆえやらずにおいて苦しませていなくてはならない。従来の道徳は苦しませておけと命じている。しかし医学社会には、これを非とする論がある。すなわち死に瀕《ひん》して苦しむものがあったら、らくに死なせて、その苦を救ってやるがいいというのである。これをユウタナジイという。らくに死なせるという意味である。高瀬舟の罪人は、ちょうどそれと同じ場合にいたように思われる。私にはそれがひどくおもしろい。
こう思って私は「高瀬舟」という話を書いた。『中央公論』で公にしたのがそれである。
底本:「山椒大夫・高瀬舟」岩波文庫
1938(昭和13)年7月1日第1刷発行
1967(昭和42)年6月16日第34刷改版発行
1998(平成10)年4月6日第77刷発行
初出:「心の花 第二十巻第一号」
1916(大正5)年1月1日発行
入力:kompass
校正:土屋隆
2006年3月8日作成
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