橋の下
フレデリック・ブウテ Frederic Boutet
森鴎外訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)涜《けが》された

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)青|金剛石《ダイアモンド》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った
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 一本腕は橋の下に来て、まず体に一面に食っ附いた雪を振り落した。川の岸が、涜《けが》されたことのない処女の純潔に譬《たと》えてもいいように、真っ白くなっているので、橋の穹窿《きゅうりゅう》の下は一層暗く見えた。しかしほどなく目が闇に馴れた。数日前から夜ごとに来て寝る穴が、幸にまだ誰《たれ》にも手を附けられずにいると云うことが、ただ一目見て分かった。古い車台を天井にして、大きい導管二つを左右の壁にした穴である。
 雪を振り落してから、一本腕はぼろぼろになった上着と、だぶだぶして体に合わない胴着との控鈕《ボタン》をはずした。その下には襦袢《じゅばん》の代りに、
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