に戦ひ、官兵の大川村を占領した日である。
「六日。雨。去廿九日|木子内《きこない》及|二股《ふたまた》之賊敗走、官軍大野有川迄進撃相成候由。」
「七日。漸晴。」武揚等の艦隊中蟠竜回天の二艦が機関を毀《そこな》つた。
「十一日。晴。午刻より中野村行。広江氏不快に付て也。一宿。途中津軽坂|聴子規《ほとゝぎすをきく》。」是日武揚等は遂に自ら諸艦を焚《や》いた。
「十二日。陰。夕微雨。朝飯後中野村出立。途中落馬、左脇打撲。午後帰寓。」是日官軍が五稜廓を砲撃した。香亭の文に曰く。「甲鉄艦発大※[#「石+駮」、第3水準1−89−16]。撃五稜廓。屋瓦尽振。将士多死。秀頴在蓐。毎聞砲声。欲起而仆。創滋劇。遂絶。年二十七。」
「十三日。晴。去十日より箱館府戦争有之、賊徒敗走、軍艦に而も戦争有之、是亦官軍大勝利。松軒子之書状|安野呂《あのろ》より来る。」

     その三百四十三

 棠軒従軍日記の己巳五月十三日後の文は下《しも》の如くである。
「十四日。朝|陰《くもる》。午後晴。昨日当藩医師芳賀玄仲来。御旗|向地《むかひち》へ御廻しに相成、江木軽部等近日渡海之事。」当藩は津軽である。旗を向地に廻すとは岡田総督の彼岸に航する謂《いひ》であらう。江木氏、繁太郎。軽部氏、半左衛門、四十五歳。
「十五日。陰。午後晴。御勝手方中野村引払、当所本陣へ転陣。」岡田|航赴《かうふ》の準備である。一戸の記に拠れば、是日辨天砲台の戌兵降り、官軍の将校田島敬蔵、中山良三相次いで武揚に降を勧めた。武揚はこれを斥《しりぞ》け中山に託して「万国海律全書」二巻を官軍に贈つた。兵卒の逃れ去るもの踵《くびす》を接した。
「十六日。晴。月給金二両受取。」一戸の記に拠れば、是日|来島《くるしま》頼三の隊が千代岡《ちよがをか》を攻撃し、大鳥圭介等退いて五稜廓に入つた。官軍の参謀黒田|清隆《きよたか》は海律全書を受けて、酒五樽を武揚に贈つた。
「十七日。朝陰。午後晴。風。今夜四時御旗向地へ御渡海之事。」一戸の記に拠れば、田島敬三は是日再び往いて武揚を説いた。武揚は遂に黒田了介、中山良三と千代岡に会見して開城を約した。
「十八日。陰。風。小雨。近日軽寒、稍与二月気候相似《やゝにぐわつのきこうとあひにたり》。」一戸の記に拠れば、武揚は是日松平太郎、荒井郁之助、大鳥圭介等と与に出でて降つた。前田|雅楽《うた》は兵二小隊を率《ひきゐ》て廓に入り、兵器軍糧の授受に任じた。砲二十門、銃千六百挺、米五百俵である。将卒の降るもの千余人であつた。武揚は天保七年八月二十五日に生れた。一戸が文久元年二十七歳にして和蘭に留学したと云ふを見れば、一年の違算がある。二十七歳は二十六歳の誤であらう。戊辰の年には武揚は三十三歳であつた。
「十九日。微雨。午後晴。廿日。廿一日。晴。向地敵軍|去《さんぬる》十七日愈降伏、箱館府御平治相成候に付、残御人数及輜重一切渡海可致旨。尤病人三人(秋月辰三、小山忠三郎及人夫富五郎)戦事手負大病院へ御預に相成。為纏《まとめのため》磯貫一郎、藤田松軒御差越しに相成候。」十七日は武揚等の開城を約した日である。小山忠三郎は周旋方である。其他は上《かみ》に注してある。
「廿二日。陰。夜微雨。早朝油川菊重方出立。青森辰巳屋へ一旦著、大病院へ三人之病者頼行。其後往吉屋藤右衛門へ落着。風波|悪敷《あしく》、船不出帆。」
「廿三日。晴。午後雨。午後八時青森港出帆、夜五時過箱館著船。」
「廿四日。微雨。朝上陸。大病院下宿和島屋某へ著。本藩兵隊東京府迄引揚可申旨。尤明朝十字乗船之事。斎藤勘兵衛、河野|乾二《けんじ》、生口拡《いくちひろめ》病者為纏居残被仰付。」斎藤勘兵衛、二十七歳。席順に「撃小長」の肩書がある。鷹撃隊小隊長の略ださうである。河野乾二「軍事方」の肩書がある。
「廿五日。晴。後微雨。朝十字英船アラビアン乗船。夕四字箱館港出帆。」
「廿六日。雨。廿七日。午後晴。廿八日。晴。夜十一字横浜港迄著船。無程出帆。」
「廿九日。晴。朝四時頃品川著船。鮫津川崎屋へ上陸。夫々分散。病院は脇本陣広島屋太兵衛へ落著。御上《おんかみ》当時御在府に而、一統へ御意有之並に為陣服料《ぢんふくれうとして》金三両|宛《づつ》被成下《なしくださる》。尤典式伊木市十郎御使者也。」席順には「典式伊木市左衛門、三十八」と云つてある。
「六月朔日。微雨。従天朝《てんてうより》一同へ御酒御肴被下置。午刻より長谷寺《ちやうこくじ》、祥雲寺参詣。」
「二日。雨。於丸山邸岡田総督始夫卒迄御酒御吸物被成下。於福山当二月紋次郎痘死之由。」棠軒は始て二子紋次郎の死を聞知したのである。紋次郎は二歳にして夭した。
「三日。四日。雨。五日。陰。夜又雨。大殿様より一同へ御酒御肴被成下。当所かまや川崎や両所に而開宴。」大殿は四代前の正寧《まさやす》である
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