その時突然非常に眠たくなつた。もう頭を上げてはゐられない。そこで肱を曲げてそれを枕にしてすぐに寐入つた。
 此眠は只一刹那で覚めた。そしてセルギウスの心頭には、半ばは夢のやうに、昔の記念が浮んで来た。
 セルギウスはまだ子供半分の時に、田舎で、母の許にゐた。母衣《ほろ》を掛けて半分隠した馬車が家の前に来て留まつた。馬車の中からはニコライ・セルギエヰツチユをぢさんが出た。恐ろしい黒い鎌鬚の生えた人である。そのをぢさんが痩せた、小さい娘を連れてゐる。名はパシエンカと云つて、大きい優しい目の、はにかんだ顔をしてゐる。パシエンカは我々男の子の仲間に連れて来られたので、我々はその子と一しよに遊ばなくてはならなかつた。その遊がひどく退屈だ。娘が余り馬鹿だからである。とう/\しまひには男の子が皆娘を馬鹿にして、娘に泳げるか泳いで見せろと云つた。娘はこんなに泳げると云つて、土の上に腹這になつて泳ぐ真似をした。男の子等は皆|可笑《をか》しがつて笑つた。娘は馬鹿にせられたのに気が付いて頬の上に大きい真つ赤な斑《ぶち》が出来た。その様子が如何にも際限なく、哀《あはれ》つぽいので、男の子等が却て自分達のした事
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