る舟橋《ふなばし》あり。水清く底見えたり。浅瀬《あさせ》の波|舳《へ》に触《ふ》れて底なる石の相磨して声するようなり。道の傍には細流ありて、岸辺の蘆には皷子花《ひるがお》からみつきたるが、時得顔《ときえがお》にさきたり。その蔭には繊《ほそ》き腹濃きみどりいろにて羽|漆《うるし》の如き蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]《とんぼう》あまた飛びめぐりたるを見る。須坂にて昼餉《ひるげ》食べて、乗りきたりし車を山田まで継《つ》がせんとせしに、辞《いな》みていう、これよりは路《みち》嶮《けわ》しく、牛馬ならでは通《かよ》いがたし。偶※[#二の字点、1−2−22]牛|挽《ひ》きて山田へ帰る翁ありて、牛の背《せな》借さんという。これに騎《の》りて須坂を出ず。足指漸く仰《あお》ぎて、遂につづらおりなる山道に入りぬ。ところどころに清泉|迸《ほとばし》りいでて、野生の撫子《なでしこ》いと麗《うるわ》しく咲きたり。その外、都にて園に植うる滝菜《たきな》、水引草《みづひきそう》など皆野生す。しょうりょうという褐色《かっしょく》の蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]あり、群をなして飛べり。日《ひ
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